背景・経緯
インフラの維持管理は、平成25年11月に決定されたインフラ長寿命化基本計画(新しいタブで開きます)を起点に、3層の計画体系で動いている。政府の基本計画の下に、各省庁・地方公共団体が施策の方向性を定めるインフラ長寿命化計画(行動計画)、その下に施設管理者が施設ごとの方針を定める個別施設計画がある。国土交通省は全府省庁に先駆けて平成26年5月に行動計画を策定し、現在は第2期(令和3年6月策定、令和6年4月1日改訂)で運用している。
点検計画はこの体系の一番下、個別施設計画の実行部分にあたる。国土交通省は個別施設計画を「メンテナンスサイクルの核」と位置づけ、各管理者が定めた記載事項を基本として策定するものとしている。点検の頻度や範囲は単独で決めるものではなく、施設の状態と措置の方針から逆算して決まる。
背景にあるのは老朽化の速度である。道路橋は建設後50年を超えるものが2023年3月時点で約37%、2030年3月に約54%、2040年3月に約75%に達すると見込まれている。
詳細・ポイント
計画は3層、実行は1層。基本計画(政府)→行動計画(省庁・自治体)→個別施設計画(施設管理者)という入れ子になっている。実務で手を動かすのは個別施設計画で、点検計画はその中の「いつ、何を、どの方法で確認するか」を決める部分になる。上位計画の文言を写しただけの計画は、現場の発注単位に落ちてこない。
個別施設計画に書く項目は決まっている。計画期間、対象施設、施設の現状と課題、中長期的な維持管理・更新等のコストの見通し、必要施策に係る取組の方向性、フォローアップが基本の記載事項である。措置については、対策の優先順位の考え方、個別施設の状態、対策内容と実施時期、対策費用を落とす。点検計画はこのうち「現状の把握」と「対策内容と時期」を支える入力になる。
点検頻度は要領が基準で、短縮は管理者の判断。道路橋定期点検要領(新しいタブで開きます)(令和6年3月、国土交通省道路局)は、点検間隔を5年に1回とすることを基本とし、必要に応じて5年より短い間隔で行うことも検討する、としている。塩害や凍結防止剤の影響が強い環境、損傷の進行が速い構造、代替路がない重要路線は、基本の間隔より短くする根拠になる。逆に「5年に1回だから次は5年後」と一律に扱うと、進行性のある損傷を取りこぼす。
診断の区分が措置の引き金になる。点検の結果は健全性の診断として4段階(健全/予防保全段階/早期措置段階/緊急措置段階)に区分される。計画側で決めておくべきは、区分が出た後にいつ、誰の決裁で、どの予算筋に上げるかである。ここが決まっていないと、点検は終わっているのに措置が動かない状態が常態化する。
予算は単年度でなく中長期でならす。個別施設計画に中長期のコスト見通しを書くのは、修繕と更新の山を平準化するためである。単年度予算の範囲で目立つ損傷から直す運用を続けると、更新時期が一斉に来たときに選択肢がなくなる。施設群としてまとめて発注する包括的民間委託は、単価の低減と体制の安定を同時に狙う手段として手引きが整備されている。
点検計画の作り方(実務者のアクション)
- 対象施設を棚卸しする。台帳の有無、建設年度、構造種別、路線の重要度、過去の点検記録の保存状態を一覧にする。台帳が無い施設は、計画より先に台帳整備が仕事になる。
- 上位計画との接続を確認する。所管する行動計画と個別施設計画の記載事項を読み、点検計画がどの項目に効くのかを1行で説明できるようにする。
- 頻度を施設ごとに決める。要領の基本間隔を出発点に、環境条件・損傷の進行性・代替性で短縮の要否を判断し、判断理由を残す。理由が残っていれば、次回見直しで同じ議論を繰り返さずに済む。
- 点検→診断→措置の持ち回りを決める。区分ごとの対応期限、決裁者、予算要求の時期を表にする。点検計画と措置計画を別の担当が別々に作ると、この接続が抜ける。
- 中長期のコスト見通しを置く。施設ごとの措置見込みを年度に並べ、山が偏っていないかを確認する。偏っている場合は、点検頻度を緩めるのではなく、措置の前倒し・後ろ倒しと工法の選択で平らにする。
- 記録の形式を先に決める。写真の撮り方、損傷位置の表記、判定の根拠の残し方を統一しておくと、次回点検の経年比較と発注図書の作成が軽くなる。点検支援技術を使う場合も、記録形式が揃っていないと効果が出ない。
つまずきやすいポイント
- 点検を単年度の業務発注として捉え、計画と切り離す。記録が翌年に引き継がれず、毎回ゼロから調べ直すことになる。
- 頻度を一律に適用し、短縮の判断をしない。要領は基本値を示すもので、施設条件に応じた見直しを排除していない。
- 区分が出た後の予算筋が決まっていない。早期措置段階の判定が、翌年度の予算要求に間に合わず先送りされる。
- 中長期のコスト見通しを根拠のない総額で埋める。施設ごとの積み上げが無いと、平準化の判断ができない。
- 点検支援技術の導入を目的化する。近接目視と同等の情報が得られるかどうかが適用判断の分かれ目になる。
関連するガイドとツール
事後保全から予防保全への転換は予防保全への転換で、点検手段の選択はドローンによる橋梁点検で扱っている。巡目を重ねた運用は道路橋の三巡目点検に整理した。施設全体の保有方針は自治体のファシリティマネジメントが近い。措置を工事として実行する段になったら、着手日から逆算する工期計算で工程の余裕を確認しておきたい。