このチェックリストの使い方
この文書は、建築物の所有者または管理者が、建築基準法12条に基づく定期報告が義務付けられていることを確認し、必要な手続きを漏れなく実行するために作成したものである。実務では3つの系統(①特定建築物、②特定建築設備等、③道路橋)があり、同じ建物でも建物の調査と設備の検査は別々の手続きになる。
使用手順は2段階である。まず最初のセクションで自分の施設の系統を特定し、該当するパートに進む。その後にチェック項目を一つずつ確認し、完了したものにマーキングしながら進めるとよい。
根拠法令はすべてe-Gov公布条文(建築基準法・施行規則)および道路橋定期点検要領(令和6年3月改訂)から引用している。
自分が扱うのはどの系統かを確認する
- [ ] 対象施設が「建築物」か「建築設備等」か「道路橋」か判別する
- 建築物 = 敷地・構造・建築設備全般(一般建築物のうち政令で定めるもの)
- 建築設備等 = 昇降機・換気設備・排煙設備・非常用照明・防火設備
- 道路橋 = 道路法上の道路に架かる橋(橋長2.0m以上)
- [ ] 同一敷地に複数の系統が入らないか確認する
- ビルの構造体 → ①
- 館内のエレベーター → ②
- 駐車場へのアプローチの橋 → ③
- 同じ敷地内でも系統ごとに異なる担当者が異なる場合がある
- [ ] 物件がある自治体の規則を確認する
- 法12条1項(建築物)の時期幅は「おおむね六月から三年まで」
- 法12条3項(設備)の時期幅は「おおむね六月から一年まで」(国交省指定の項目は1年から3年)
- この「3年」「1年」は法律の数字ではなく、各自治体が条例・規則で実際に定める時期を決めている
- オフィシャルな確認先: 市町村の建築指導課または都市整備課のウェブサイト
- 例: 「○○市 建築基準法 定期調査 時期」で検索
その1 — 特定建築物の調査報告チェックリスト(法12条1項・規則5条)
- [ ] 所有者または管理者を確認する
- 原則として「所有者」が報告主体
- 所有者と管理者が異なる場合は「管理者」が報告主体(法12条1項但書)
- 区分所有建物では管理組合(管理人)が対応する場合が多い
- [ ] 調査できる資格を持った者を選任する
- 一級建築士
- 二級建築士(対象建築物によって制限あり)
- 建築物調査員
- 資格者証番号を書類に残す必要がある
- [ ] 当該自治体の報告時期を確認する
- その市の建築関係条例・規則で定められた報告期間をチェック
- 例: ○○市は令和X年度は4月1日〜9月30日
- 自治体によって期限が大きく異なるので、本社が複数市区にある場合は個別に表を作る
- [ ] 調査を実施する
- 敷地(地盤・基礎・擁壁等)
- 構造(柱・梁・床・壁・屋根など主要構造部材)
- 建築設備(給排水・衛生・電気設備など政令で定めるもの)
- 写真撮影と損傷図面の作成
- [ ] 報告書を3点セットで作成する
- 報告書: 別記第三十六号の二様式(基本事項と判定結果を記載)
- 概要書: 別記第三十六号の三様式(施主要約用)
- 調査結果表: 国土交通省が定める様式(詳細な測定・判定データ)
- 3点セットを一度に作るのが前提。後回しにすると毎回作り直すことになる
- [ ] 特定行政庁に報告する
- 提出先: 都道府県または指定都市の建築主管課
- 郵送または窓口提出(自治体によって方法が異なる)
- 受付番号や受領証明が残る形で出すようにする
- [ ] 報告書を自社で保管する
- 次回点検時の比較資料として必要
- 次の報告書の時、「前回調査の結果」と突き合わせられる
その2 — 特定建築設備等の検査報告チェックリスト(法12条3項・規則6条)
- [ ] 設備の種類をリストアップする
- 昇降機(エレベーター・エスカレーター)
- 換気設備
- 排煙設備
- 非常用照明
- 防火戸その他の政令で定める防火設備
- [ ] 検査できる資格を確認する
- 一級建築士
- 二級建築士
- 建築設備等検査員(設備専門の資格)
- 建築物側と同じ資格者が対応する場合もあるが、書式は Equipment 側に依存
- [ ] 報告時期を確認する
- 幅: 「おおむね六月から一年まで」(ルール上は1年の範囲内)
- ただし国交大臣が定める検査項目は「一年から三年」まで延長できる
- これは自治体条例で実際に定められるため、上記と同じく自治体の規則を確認
- [ ] 設備ごとに様式を使い分ける
- 昇降機 → 別記第三十六号の四様式・第五様式
- 建築設備(換気・排煙・非常用照明等)→ 第六様式・第七様式
- 防火設備 → 第八様式・第九様式
- 様式ごとの区分けを間違えると申請自体が受理されない可能性がある
- [ ] 建築物側と同じ3点セットを準備する
- 報告書(設備用の様式)
- 概要書
- 調査結果表
- [ ] 特定行政庁に報告する
- 提出先は建築物側と同じ場所(特定行政庁)
- 提出期限を守ること。期限内に来ない問い合わせより、期限ギリギリの不備の方が対応が難しい
その3 — 道路橋の定期点検チェックリスト(道路橋定期点検要領R6.3)
- [ ] 対象桥梁か確認する
- 橋長2.0m以上の道路橋が対象
- 個人住宅の裏手の小規模な歩道橋等は含まれない場合がある
- [ ] 点検間隔を確認する
- 基本: 5年に1回(定期点検)
- 必要に応じて5年より短い間隔での実施も検討する
- 環境条件(塩害地域・凍結防止剤多用地域)、損傷進行性、代替路の有無を判断材料にする
- [ ] 診断者を確保する
- 健全性の診断を適切に行える知識と技能を有する者
- 建築物側のよう国家資格者は規定されていないが、実務的には建築士・土木技術者の経験者が対応
- [ ] 診断区分を付ける
- Ⅰ 健全 — 異常なし
- Ⅱ 予防保全段階 — 将来の劣化に対応する修繕が必要
- Ⅲ 早期措置段階 — 早期の修繕・補強が必要
- Ⅳ 緊急措置段階 — 直ちに緊急措置が必要(通行止め含む)
- [ ] 記録を残す
- 写真、損傷図、診断結果
- 器具損傷状況の測定データ(可能であれば)
- 建築物側のように特定行政庁へ提出するわけではないが、内部台帳として管理する
- [ ] 措置の順番を決める
- 区分以外の要素も併せて優先順位をつける: 通行の可否、代替路の有無、緊急輸送道路かどうか、進行性の程度
つまずきやすいポイント — よくある誤りと回避策
- 建物の調査と設備の検査を1通の報告書で片付ける
- 法12条1項(建築物)と3項(設備)は別立て。様式も違う。調査・検査者は共通の場合でも、提出書類は別個に必要なケースが大半
- 「3年に1回」「1年に1回」と法律と思い込む
- 建築基準法施行規則5条1項は「おおむね六月から三年までの間隔をおいて特定行政庁が定める時期」、規則6条1項は「おおむね六月から一年まで」。法律自体が具体的な数字を出していない。自治体の条例・規則に従うこと
- 様式の区切りを間違える
- 建築物側: 様式36号の2 + 36号の3 + 調査結果表(規則5条3項)
- 設備側: 昇降機=36号の4+5、建築設備=36号の6+7、防火設備=36号の8+9(規則6条3項)
- 設備の中でも種類ごとに様式が分かれている点を押さえる
- 報告して終わりとする
- 法12条8項・9項により、報告内容は特定行政庁の台帳に残る(法12条8項の「保存」規定)。次回調査時に前回の報告と突き合わせられるため、自社のファイルにも正確な保管体制を整える必要がある
- 未報告のリスクを甘く見る
- 法101条2号: 12条の規定に違反した者は100万円以下の罰金。過料ではなく罰金なので刑事処分となる場合がある
- 報告時期を一律に「来年の3月」としておく
- 各市町村ごとに報告期間が異なる。東京都23区内と多摩地区、地方都市でそれぞれ異なることが普通。支店・出張所がある企業は拠点ごとにカレンダーを作るべき
法101条2号の罰則確認
- [ ] 法12条の調査・検査・報告義務を履行していない状態はないか
- 法101条2号: 第12条の規定に違反した場合、100万円以下の罰金
- [ ] 虚偽報告をしていないか
- 同上。実際には欠陥があっても健全であると報告することは虚偽に当たり、法101条2号の適用対象
- [ ] 所有者と管理者のどちらが報告主体かを文書で明確化しているか
- 所有者と管理者が別の場合、管理者が主体となるが、内部に合意文書がないと現場で迷いが生じる
年間の流れ — 自分の自治体に当てはめるためのテンプレート
- [ ] その1: 自治体の報告時期を調べる
- URL検索: 「{市名} 建築基準法 定期調査 報告 時期」
- または市役所建築指導課に電話またはメールで確認
- 求め得る情報: 報告対象ビルティング種別・報告期限(年度の何月末日まで)・提出先窓口・様式の入手場所
- [ ] その2: 報告日のカレンダーを作成する
- 市内の全拠点について、自治体の報告期限を列挙
- 例: Aビル(中央区)は4月末日 / Bビル(港区)は6月末日 / Cビル(大田区)は9月末日
- [ ] その3: 報告までに遡ってスケジュールを組む
- 報告期限の少なくとも2ヶ月前に調査業者を手配
- 調査結果の精査、社内決裁、提出準備に余裕を見て逆算する
- 设备側の報告時期(幅1年以内)が建築物側(幅3年以内)より短い場合、設備が先に締め切られる可能性が高い
関連するガイドとツール
維持管理計画(点検計画)の立て方は、点検頻度と予算の考え方を整理している。点検結果の記録と是正の優先順位は、報告後の記録の残し方と是正の順番の決め方を条文レベルで詳述している。予防保全への転換は予防保全への転換に、ドローンによる橋梁点検はドローンによる橋梁点検にそれぞれ触れている。工期計算は工期計算で、措置工事の実施時期を逆算することができる。