背景・経緯

2027年4月1日、設計と工事監理の契約のルールが変わる。建築士法第22条の3の3が求める書面の交付は、いまは「延べ面積が300㎡を超える建築物の新築に係る」契約に限られている。この限定が外れ、面積等を問わず、建築士が行う設計又は工事監理の委託を受けることを内容とする全ての契約が対象になる。木造住宅、小規模店舗、増築、リノベーション、工事監理だけの契約まで入る。

この規定は、2008年(平成20年)の建築士法改正で新設された第4章の2「設計受託契約等」の一部だ。第22条の3の2が契約の原則(対等な立場における合意、公正な契約、信義則)を定め、第22条の3の3が書面の交付を、第24条の7が契約締結前の重要事項説明を置く。書面の交付義務そのものは2014年(平成26年)の改正で導入され、2015年6月25日に施行、経過措置により2016年4月1日以後に締結された契約から適用されてきた。そのとき対象になったのが300㎡超の新築等だった。

改正の起点は、建築設計3団体が共同でまとめた提案を議員立法のかたちで成立させたことにある。建築士法の一部を改正する法律として2026年7月31日に公布された(令和8年法律第74号)。柱は2つだ。ひとつは将来の建築士等の確保で、建築士試験の在学中受験、二級・木造建築士の実務経験要件の緩和、建築設備士の登録制度の創設が入る。公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日から施行される、つまり期日はまだ確定していない。

もうひとつが契約の適正化で、こちらは公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日、すなわち2027年4月1日から施行される(令和8年政令第323号)。国土交通省は2026年10月6日に公布資料を公開した。設計事務所にとって先に効くのはこちらである。契約書式、見積書、重要事項説明書の3点を、今年度のうちに揃えておく必要がある。

詳細・ポイント

面積の壁がなくなる。現行の第22条の3の3第1項は「延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る設計受託契約又は工事監理受託契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」と書く。改正案はこの冒頭から面積と新築の限定を削り、工事監理受託契約のあとに「(建築士が行う設計又は工事監理に係るものに限る。以下この条において同じ。)」という限定を足す。あわせて、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替を新築とみなして適用する現行第3項が削除される。面積要件がなくなれば、みなし規定は要らない。条の見出しも「延べ面積が三百平方メートルを超える建築物に係る契約の内容」から「設計受託契約等の内容」に変わる。

契約書に書く6項目は変わらない。第1項各号は現行のままで、次の6つだ。

  1. 設計受託契約にあっては、作成する設計図書の種類
  2. 工事監理受託契約にあっては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法
  3. 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあっては、その旨
  4. 報酬の額及び支払の時期
  5. 契約の解除に関する事項
  6. 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項

第6号の省令事項は建築士法施行規則第17条の38に置かれている。建築士事務所の名称・所在地・区分と登録番号、開設者の氏名(法人なら名称と代表者)、対象となる建築物の概要、業務の種類・内容及び方法、従事する建築士の登録番号、建築設備士の氏名、設計又は工事監理の一部を委託する場合の委託先(協力建築士事務所)の名称・所在地などが入る。設計と監理を一つの契約で受ける場合は第1号と第2号の両方を書き、担当建築士が変わったときは第2項の変更の書面を出す。ここは規模に関係なく、これまで300㎡超の案件で使ってきた様式をそのまま横に広げる作業になる。

契約前・契約時・契約後の3枚を混同しない。設計契約の周りには書面が3種類ある。契約前は第24条の7の重要事項説明で、開設者が管理建築士その他の所属建築士をして、6項目を含む事項を記載した書面を交付して説明させ、説明する建築士は免許証を提示する。契約時が第22条の3の3で、当事者双方が署名又は記名押印した書面を相互に交付する。契約後が第24条の8で、開設者が契約締結後、遅滞なく第22条の3の3第1項各号の事項を記載した書面を委託者に交付する。

重要なのは、第24条の7と第24条の8にはもともと面積要件がないことだ。300㎡以下の設計契約でも、契約前の説明と契約後の書面交付はすでに義務だった。抜けていたのは、建築主の署名が入った契約書を相互に交わすという部分だけだった。改正でこの3枚が全契約で揃う。記載事項がほぼ共通なので、ひな形を共通化すれば二重入力は避けられる。3枚とも、相手方の承諾を得れば電磁的方法による提供で足りる(第22条の3の3第3項、第24条の7第3項、第24条の8第2項)。電子契約はすでに法的に可能で、改正でその使い勝手が変わるわけではない。

見積書が努力義務になる。第24条の9の次に一条が加わり、第24条の10「設計等の業務の見積り」が新設される。建築士事務所の開設者は、設計等の業務に係る契約を締結しようとするときは、報酬の算定の根拠を明らかにするための見積書を作成するよう努めなければならない。あわせて第22条の3の4が変わり、報酬は第25条の報酬の基準に準拠し、かつ第24条の10の見積書の内容その他の事情を考慮して、設計又は工事監理の委託の内容に応じた適正な額にする、という建て付けになる。条文上は「作成するよう努めなければならない」までで、交付そのものを義務づける規定ではない。だが、相手が内容を考慮できる状態になっていなければ制度の趣旨が成立しないので、提示まで含めて運用するのが実務的な線だ。

この条項は、値引きの場面で効く。業務範囲を「設計図書の作成」とだけ書くと、確認申請の補正対応、構造計算、意匠の修正回数、監理の現場回数、模型やパースが全部その中に溶ける。見積書を業務項目と数量で分けておけば、追加は追加として積める。標準請負契約約款のリスクで扱ったような契約トラブルの多くは、金額そのものより業務範囲の不明確さから来る。設計側から範囲を明示する道具が、努力義務というかたちで制度に入った意味は小さくない。

違反は事務所の監督処分につながる。第22条の3の3に罰則はなく、代わりに第26条第2項第1号が監督処分の事由として置かれている。建築士事務所の開設者がこの規定に違反した場合、都道府県知事は戒告、1年以内の期間を定めた事務所の閉鎖命令、または登録の取消しをすることができる。改正案は、この号の引用を改正後の項番に合わせて書き換える。加えて、書面がない契約は、業務範囲・報酬・変更の立証が民事の場面で難しくなる。署名前のメールやチャットが残っていれば救われるが、それは偶然に頼る運用だ。

効き始めるのは契約を結んだ日から。附則第4条は、新しい第22条の3の3を施行日以後に締結される設計受託契約又は工事監理受託契約について適用し、同日前に締結された契約についてはなお従前の例によると定める。つまり2027年3月31日までに結んだ契約は、300㎡以下なら書面の相互交付義務は生じない。ここで注意したいのは、契約日で切れるのは契約の成立時点だという点で、4月以後に変更や追加を重ねる場面まで旧ルールで通せるという意味ではない。社内の様式は4月1日から切り替え、3月までに結んだ契約の変更も新様式で出す。そのほうが説明が簡単だ。

「建築士が行う」の限定をどう読むか。改正案が足す限定は、法第3条で建築士でなければできない設計・監理に限るという意味ではない。契約の対象となる業務が、建築士の行う設計又は工事監理であることを示している。建築士事務所が受ける設計・監理は、規模にかかわらずこの中に入る。逆に、建築士でなくてもできる範囲の設計を建築士以外の者が引き受ける契約は、条文の外にある。実務では「自社が建築士事務所として受ける設計・監理は全部」と捉え、迷ったら書面を出す側に倒すのが安全だ。相手が建築主でない場合も同じで、建設会社やサブコンから設計を受託する契約も「当事者」として対象になる。ただし第24条の7の重要事項説明の相手方は建築主なので、そこは分けて考える。

もうひとつの柱は採用と資格の話。在学中の受験は、大学・高校等で一定の単位を取得し、最終学年で卒業見込みであることが条件になる。学科を卒業していない場合の二級・木造建築士は、実務7年が必要とされているところを、実務2年で受験でき、受験前を含めた実務4年で免許を取得できる形にする。二級から一級を目指す場合は、二級建築士としての実務4年を、二級になる前の実務や学歴と組み合わせて2年に短縮する。建築設備士は受験時の実務経験を不要とし、登録時に実務を積む制度に変える。こちらは公布から3年以内で、期日は政令待ちだ。事務所の採用計画や受験支援の設計に効くが、契約実務とは別の時間軸で動く。

2027年4月1日までにやる4項目

1. 契約書式を面積で分けるのをやめる。いま様式を300㎡超と以下で分けているなら、統合する。設計のみ、監理のみ、設計監理一体の3類型に、増築・改修・リノベーションの別を足す。第1号と第2号の記載欄を最初から両方用意し、使わない欄は「該当なし」と書く運用にすると、担当者が案件ごとに判断しなくて済む。

2. 見積書の型を業務項目で作る。設計図書の作成、構造計算、確認申請の手続、申請後の補正対応、監理の回数、遠隔地の旅費、模型・パース・BIMデータの受け渡し。項目ごとに数量と単価を置き、除外事項を明記する。第22条の3の4の「適正な額」は、この積み上げが説明できるかどうかで説得力が変わる。

3. 3枚の書面を同じデータから出す。重要事項説明書、契約書、契約後の交付書面は、記載事項の大半が重なる。物件情報と業務範囲を1か所で持ち、3様式に流し込む形にすれば、記載漏れと更新漏れが減る。差がつくのは契約書の署名欄と、契約後書面の交付日だけだ。

4. 電子交付の同意を取り方ごと決める。電磁的方法による提供は相手方の承諾が前提になる。契約書式に同意条項を入れ、初回の契約でまとめて取るのか、案件ごとに取るのかを決めておく。押印のために郵送を往復させる運用が残っていると、小規模案件ほど手間が利益を削る。

つまずきやすい5点

300㎡以下は対象外という理解のまま。最も多い誤解になる。面積要件は削除される。木造の専用住宅も、数十㎡の店舗も、増築も、工事監理だけの契約も入る。

契約後の書面を出しているから大丈夫という誤解。第24条の8の書面は開設者から委託者への一方向の交付で、契約時ではなく契約後だ。第22条の3の3が求めるのは、契約の締結に際して双方が署名・記名押印した書面を相互に交付すること。目的も時期も違う。

監理だけの契約を落とす。設計と監理を別契約にしている案件では、監理側の第2号(照合の方法と報告の方法)が空欄になりやすい。報告の頻度、写真の扱い、指摘の出し方まで書いておくと、あとで楽になる。

発注者が建築主でない場合を除外してしまう。第22条の3の3は「当事者」と書いてあり、建築主に限っていない。建設会社からの設計委託も対象になる。一方、第24条の7の説明の相手方は建築主なので、重説の要否は別に判断する。

文書を増やすことが目的化する。書面はトラブルを減らす道具であって、行政に出す書類ではない。記載事項を埋めるために約款と別紙を二重に作り、どちらが正か分からなくなるのが一番まずい。約款は契約書の一部として引用し、本文には案件固有の事項だけを書く。

まとめ

2027年4月1日から、建築士が行う設計・工事監理の委託契約は、面積を問わず書面の相互交付が義務になる。法律は令和8年法律第74号、施行日は令和8年政令第323号で定められた。記載事項は6項目のままで、変わるのは対象範囲だ。契約前の重要事項説明と契約後の交付書面はすでに全契約に及んでいたので、今回揃うのは契約書の部分になる。見積書は努力義務として新設され、報酬の適正化の判断材料になる。効き始めるのは施行日以後に締結した契約からで、3月までに結んだ契約は従前のまま。様式の切り替えは今年度のうちに済ませておきたい。

設計契約の実務は、発注方式の選択と表裏になる。金額と業務範囲を固定するか、実費に手数料を乗せるかで、契約書に書くべきことが変わる。コストプラスフィー契約の仕組みと入札契約ガイドラインの考え方を並べて読むと、自社の型をどこに置くか決めやすい。公布時の報道は2027年4月に迫る設計・監理の書面契約義務化にまとめてある。施行日までの他の制度変更は建設業の法改正・制度 施行日カレンダーで追っている。