背景・経緯

建物の整備は、設計事務所に図面を描いてもらい、工事を発注して完成させる、という一本道に見える。実際にはその前後に段階があり、国土交通省の官庁営繕では営繕事業のプロジェクトマネジメント要領(新しいタブで開きます)で、事業を企画立案段階、設計マネジメント段階、施工マネジメント段階、工事完成後のフォローアップ段階の4つに分け、各段階で発注者側の担当者が実施すべき事項を定めている。

段階を分ける理由は、決めるべきことと決められることが段階ごとに違うからである。企画の段階で規模と概算を押さえずに設計に入ると、実施設計の終盤で予算に収まらないことが分かる。逆に、企画で詳細を決め切ろうとすると、設計の知見を入れる余地がなくなる。4段階は分業の線引きではなく、判断の順番を示したものである。

詳細・ポイント

企画立案段階——何を、どれだけ、いつまでに。ここで作るのが企画書である。用途、必要とする機能、規模、概算事業費、概算スケジュールをまとめ、事業として成立するかを判断する。官庁営繕では官庁施設の企画書及び企画書対応確認書の標準的書式(新しいタブで開きます)が用意され、企画内容の明確化と設計審査の効率化を両立させる形になっている。発注者側が「これだけは譲れない」条件を言語化しておくことが、後の段階の判断基準になる。

設計マネジメント段階——要求を図面と数量に翻訳する。設計は基本設計と実施設計に分かれることが多い。基本設計では配置、平面、断面、構造方式、設備方式という骨格を決め、実施設計では工事の発注に必要な図面、仕様、数量を確定する。この段階の管理で重要なのは、設計の進み具合を工程で見るのではなく、決定事項が確定しているかで見ることだ。構造方式が未確定のまま実施設計に入ると、後工程の全てが仮置きになる。

コストは設計と並走させる。官庁施設の設計段階におけるコスト管理ガイドライン(新しいタブで開きます)は、設計業務の受注者が行う概算工事費の算出と、発注者が行う審査の手法を定めている。概算は設計の最後に一度出すものではなく、設計の進捗に合わせて更新し、企画段階の事業費との差をその都度確認する。差が開いたときに設計を止めて戻すのか、要求を落とすのかを決めるのが発注者の仕事になる。

施工マネジメント段階——契約後の変更をどう扱うか。着工後は、設計図書と現場の条件が食い違う箇所が出る。この段階の管理は、変更の発生をゼロにすることではなく、変更の理由と影響(金額・工期)を記録して意思決定に回すことである。設計変更の累積が当初予算を超えると、事業全体の評価が変わる。

フォローアップ段階——建てた後が事業の一部。完成後は、維持管理と保全に費用がかかり続ける。官庁営繕の技術基準には、各所修繕費要求単価や庁舎維持管理費要求単価、建築保全業務共通仕様書(令和5年版)といった保全側の基準が揃っている。企画段階でライフサイクルコストを見ていなかった場合、ここで初めて維持管理費の重さが分かることになる。

段階ごとの確認事項(実務者のアクション)

  1. 企画書に「決めたこと」と「決めていないこと」を分けて書く。決めていないことを曖昧にしたまま次段階へ渡すと、設計者は自分の判断で埋める。それが後の手戻りになる。
  2. 段階の出口に承認点を置く。企画の承認、基本設計の承認、実施設計の承認、そして着工。誰が承認するかを決めておかないと、口頭の了解が独り歩きする。
  3. 概算は更新履歴を残す。いつ、どの設計バージョンで、いくらだったか。差の理由が説明できる状態にしておくと、事業費の変動を対外的に説明できる。
  4. 設計者への要求は書面で渡す。要求水準、数量の根拠、優先順位。口頭の指示は設計意図として記録に残らず、後で「聞いていない」となる。
  5. 完成後の保全体制を企画段階で一度考える。維持管理の担当者が決まっていない建物は、引き渡し後に誰も点検しない期間が生まれる。

つまずきやすいポイント

  • 企画と設計を同一の業者・同じ時期に丸投げする。企画の妥当性を誰もチェックしないまま規模が膨らむ。
  • 実施設計の完了間際まで概算を出さない。手戻りの規模が最大になるタイミングで初めて予算超過が分かる。
  • 承認点を設けず、担当者間の合意で進める。異動や体制変更で決定の根拠が失われる。
  • フォローアップを「引き渡しで終わり」と扱う。修繕費と保全業務の前提が次年度以降に引き継がれない。

関連するガイドとツール

公共建築の発注手続きは公共建築の発注フローに、発注者側の実務は企画段階の発注者業務に整理している。設計の次に来る施工の段取りは施工計画書の作り方、完成後の維持管理は維持管理計画(点検計画)の立て方へ続く。工程の余裕は工期計算、遅れの波及はフロート(余裕時間)の読み方で確認できる。