背景・経緯
経営事項審査(経審)は、国・地方公共団体などが発注する公共工事を直接請け負おうとする建設業許可業者が、必ず受けなければならない審査だ。発注機関は入札参加資格を審査するとき、欠格要件に該当しないかを確認したうえで、客観的事項と発注者別評価を点数化して格付けする。経審はこのうちの客観的事項にあたる。
どこかの発注機関だけが特別な基準を使うのではなく、どの発注機関でも同じ結果になるべきものなので、建設業法に基づいて許可行政庁が統一的に審査する。つまり経審は「入札のための社内書類」ではなく、法令に根拠を持つ公的な評価であり、結果通知書は公共工事の契約そのものに必要になる。
対象になる公共工事は、国、地方公共団体、法人税別表第一に掲げる公共法人などが発注する施設・工作物の建設工事で、1件の請負代金額が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)のもの。金額と発注者がこの範囲に入るなら、入札参加資格を持っているかどうかとは別に、契約の締結に経審の結果通知書が要る。
詳細・ポイント
審査基準日は「直前の決算日」。原則として、申請する日の直前の事業年度終了日が審査基準日になる。申請の時点で新しい決算日を迎えていれば、従前の基準日では受けられない。合併や営業権の譲渡があった場合は別の日が基準日になるため、事前に許可行政庁へ相談する。
有効期間は基準日から1年7か月。結果通知書を受け取った日から起算するのではない。この違いが実務で最も事故になりやすい。有効期間が切れると公共工事を請け負えなくなるので、毎年決算後4か月以内の申請を目安にする。3月決算の会社なら7月末が目安の期限である。
1年7か月という長さは、決算から申請・通知までの時間を吸収するための余裕であって、申請を1年飛ばせるという意味ではない。基準日が2年空くと、前の審査の有効期間が切れてから次の基準日が来るまでの空白が生まれる。
経審の前に決算変更届。申請の前提として、建設業許可に係る決算の変更届出書を提出しておく必要がある。決算変更届は毎事業年度終了後4か月以内(建設業法第11条第2項)。つまり決算変更届と経審申請は、同じ期限に重なる。ここを別々の担当が別々のカレンダーで動かすと、片方が漏れる。
評価は2つの機関に分かれる。経営状況分析(Y)は国土交通大臣が登録した民間の経営状況分析機関が行い、経営規模等評価(X・Z・W)は許可行政庁が行う。手続きはYが先で、経営状況分析の結果通知が出てから経営規模等評価申請書と確認書類を出す。総合評定値(P)は、経営規模等評価の申請者が請求したときに、YとX・Z・Wを合わせて通知される。
P点の構成。令和8年7月1日施行の改正資料では、総合評定値の算式は 0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15W とされている。X1は完成工事高、X2は自己資本額・平均利益額などの経営規模、Yは経営状況分析の結果、Zは技術力(技術職員の数と能力)、Wは社会性等(労働福祉、営業年数、建設機械の保有状況、ISOの登録、地域への貢献など)だ。配点は改正で動くため、申請する年度の手引きと告示で必ず確認する。
通知までは1〜2か月。中部地方整備局の例では、書類が到達してから結果通知まで概ね1か月〜1か月半、申請が集中する時期は2か月かかるとされている。内容に誤りがあれば修正のやり取りでさらに延びる。入札参加資格の申請時期から逆算すると、決算後すぐ動いても残る余裕は1か月程度しかない。
改正は毎年のように入る。令和8年は2月6日公布・7月1日施行の改正があり、審査項目と基準が変わった(令和8年国土交通省告示第262号)。手引きも令和8年7月版に差し替わっている。前年度の様式と記載例をそのまま使い回すと、項目の追加や配点の変更を見落とす。
年間スケジュールの組み方(実務者のアクション)
- 決算日を起点に1枚の表にする。決算変更届、経営状況分析の申請、経営規模等評価の申請、結果通知、発注機関への提出を、日付入りで並べる。担当者が替わっても同じ表で回せる状態にする。
- 決算変更届の材料を決算確定後すぐ作れるようにする。工事経歴書、直前3年の工事施工金額、財務諸表、事業報告書などが要る。決算確定から提出までを1か月以内に収める前提で、決算作業の工程に組み込む。
- 経営状況分析は決算変更届の提出後すぐ動く。ここが遅れると、経営規模等評価の申請が丸ごと後ろにずれる。分析機関ごとに混雑時期が偏るので、前年度にどこへ出したかと所要日数を記録しておく。
- 技術職員名簿は日常で更新する。Zは技術者の数と能力で決まる。退職・入社・資格取得のたびに名簿と証明書類を更新しておけば、申請直前に証明書を集める作業がなくなる。常勤性の確認書類が揃わず計上できない、というのがよくある減点要因だ。
- Wの加点項目は申請しないと0点のまま。ISOの登録状況、建設機械の保有状況、技能者名簿、就業履歴の蓄積に関する誓約書、自主宣言制度に関する誓約書などは、様式と証拠書類がセットになっている。使える制度を把握して、毎年申請のたびに漏れなく出す。
- 結果通知書の写しと有効期限を台帳にする。基準日、有効期限、P点、工程ごとの内訳を1行で残す。翌年どこを伸ばすかを決める材料になる。
3月決算の会社なら、4〜5月に決算を確定して決算変更届を作り、6月上旬に提出、6月中に経営状況分析を申請、7月上旬に経営規模等評価を申請して、8月に結果通知を受け取る、という並びになる。この並びを毎年同じ月に固定してしまうのが、期限漏れを防ぐ一番簡単な方法だ。
つまずきやすいポイント
- 有効期間を「通知を受けた日から1年7か月」と読む。起算点は基準日である。1か月遅れれば、その分だけ実質の残りは短くなる。
- 決算変更届を後回しにして経審が出せない。2つの手続きの期限が同じであることを、担当者だけでなく経理とも共有しておく。
- 決算月が変わった年に基準日を誤る。事業年度の変更は届出の対象でもある。変更のあった年は特に確認する。
- 常勤性を示す書類が揃わず技術者を計上できない。健康保険証の写しなど、在籍を外部から説明できる書類を平時に整備する。
- 加点項目を「来年やる」で毎年見送る。制度の対象になっているのに申請しない状態が続くと、毎年同じ点差を払い続けることになる。
- 申請書の記載を推測で埋める。虚偽の記載や資料の不提出は罰則の対象で、その結果得た通知書を使って契約すれば指示や営業停止の対象にもなる(建設業法第50条第1項第4号、第52条第4号、第53条、第28条第1項第2号・第3号)。判断に迷う項目は許可行政庁に確認する。
関連するガイドとツール
経審で格付けを取った後の入札方式は公共工事の入札契約方式ガイドライン、価格と技術の比べ方は総合評価落札方式の考え方に整理した。工事成績が伸びない会社の事情は入札不調・不落が止まらない、契約後のリスク分担は公共工事標準請負契約約款とリスク分担で扱っている。W点にも効く品質管理の進め方は品質管理とは、発注者が構想段階で何を決めるかは企画段階で発注者がやるべきこと。工事1件ごとの余裕は工期計算で確認できる。